バーチャル×リアルの二重奏!子どもの脳を育む料理体験【栗原心平×瀧靖之①】

「デジタルネイティブ世代」と呼ばれる現代の子どもたちにとって「料理」は、バーチャルをリアルに再現できる身近な体験です。そこで、KIDSNA ACADEMYでは4回にわたって能力開発型のオンラインクッキングスクールを開催する料理家である栗原心平さんにお話を伺いました。第一回目は、脳科学者である瀧 靖之教授、KIDSNA STYLE編集長・加藤による対談と五感を味わうレシピをご紹介します。

バーチャル×リアルの二重奏!子どもの脳を育む料理体験【栗原心平×瀧靖之①】

五感を活用し脳を育む「料理」の魅力

加藤:今の子どもたちはデジタル上でさまざまな知識を得ることが可能です。
料理を行うことで得られることに何がありますか。

心平:一番は「真実を知ることができる」ことだと思います。動画や写真で見て想像はできても、実際の「触感」や「におい」はまったく違うはずです。ましてや「味」はもっとです。そのことを身をもってわかることが料理を行うことの最大の魅力です。

瀧先生:心平さんがおっしゃる通りです。
私たちは今、旅行をすることができない中でもインターネットの世界で、ある程度視覚的に様々な体験をすることができます。ただ、そこには脳の発達と活性化につながる五感のうちの3つ、「味覚」「触覚」「嗅覚」が欠けています。
そもそもバーチャルは「受動的」です。もちろん、バーチャルの世界がダメだということではなく、バーチャルでハードルを下げ、そこからリアルに学ぶことで次のコミュニケーションなどに発展できます。
そして、脳には「能動的」な体験が重要です。特に料理は五感をフルに使いますし、自分で作ったものを食べることが成功体験につながるので、子どもたちの脳にとてもいいです。

同じレシピでも100人100通りの味になる面白さ

加藤:そこで、料理を行うことでの具体的な学びを教えてください。

心平:料理を行うことで「成り立ち」がわかります。
料理動画とレシピを見ると、とても簡単そうに思えるはずです。ましてや、編集をされたものであれば実際とはまったく違います。
数分で完成した料理も、真実の世界では編集された映像の中に実は30分くらいの間隔があって、実際にできるまでは2時間かかっているかもしれません。それが自分で作ってみることで「こんなに大変なんだ」とわかることも重要ですし、何よりバーチャルと異なるのは、最後に食べられることもリアルの魅力です。

加藤:確かに映像を見ていると、とても簡単そうにやっていることも自分でやってみると大変なのかがよくわかります。しかも、レシピ通りに作ったつもりでも同じようにはならないですよね。

心平:しかも、レシピでは味はわからないですよね。 実は、同じレシピで料理を作っていても100人いたら100通りの味になります。
例えば「中火で5分炒めてください」と書いてあってもガス台は家庭によって違いますし、またIHでも違います。
また、調味料のしょうゆも味噌も使うものはみな違うはずです。だから火加減が違って、蒸発量の違う鍋を使えば、100%違う味になっているはずです。

加藤:そう考えると「料理は科学」ですね。いろんな要素がありますね。

心平:私たち料理家は、100人100通りの味のブレ幅の予想をつけて及第点を出して「おいしい」と言えるものになっていることを確認して最終的にレシピを出しています。

加藤:すごいですね。

瀧先生:しかも芸術でもある。

加藤:レシピがそれほどまでに色々なことを考えて作られたことを考えると、今は無料で見られるので、すごくありがたいことなのだと思いました。

デジタル活用からはじめる料理体験

加藤:ところで、心平さんはデジタルを活用した料理教室を開催されていると伺いましたが…。

心平:子どもたちがタブレットを使い慣れていることが前提なのですが、去年8月からオンラインで子供向けのスクールを開催しています。
動画を見ながら、わからないところは止めたり戻したり、スワイプして拡大できるので、料理教室を行う上でデジタル活用はとても向いています。

加藤:写真とはぜんぜん違いますものね。

心平:写真だと変化がわかりづらいこともタブレットだと経時変化もすべて見ることができます。煮つけ具合などの途中過程もわかるので、失敗することもなくなります。

加藤:そういうデジタルの使い方ができるのはいいですね。

瀧先生:活字の世界は創造力を高めることができ、自分の解釈を深めることができます。一方で知識は解釈できないので、その点ではデジタルはすごくいいんです。料理本ではわからない変化なども動画では見ることができますので、次にどういう変化が起きたかの確認もできます。また、何度も見返すことで苦手意識もなくなります。
動画でイメージを作ってハードルを下げてトライする。素晴らしい選択肢のひとつだと思います。

大根おろしを作る簡単作業が自己肯定感を高める

加藤:親子でキッチンに立つことでどんなコミュニケーションが生まれますか。

心平:まず、子どもが参加するハードルを下げてあげることが重要です。作る料理に対して子どもが貢献していることがないと一緒にやっても意味がないです。
無理やり作業を作って子どもにさせるよりも、「あの作業をやってくれたからこの料理ができたよ、とても助かったよ」といった成功体験が大切なので、それを親が見つけることが大事です。

加藤:確かにそうですね。

心平:ほんとにささいなこと、みぞれ煮であれば、「大根おろしを作って」でいいです。大根おろしがないとみぞれ煮は成立しないですから。また、オムレツだったら、「卵を溶いておいて」でもいいんですよ。

加藤:なるほど。役割をつくってあげないとだめなんですね。

心平:親は、ついつい「手伝ってよ」といいがちなんですが、「この作業をやって」と言ってあげる方が子どもは受け入れやすいんです。

加藤:子どもはやる気になりますね。

心平:私はそうやってだいぶのせられました。「納豆を混ぜるのは心平がピカ一だとかね。」(笑)

加藤:そうなんですね。(笑)

瀧先生:褒めてもらえたことがやる気を引き出したんですね。
しかも、「結果」を褒めるのではなくて「努力」を褒めることが脳科学の視点では大事だと言われています。
そういう観点でも、親は子どもが一生懸命がんばっていることを褒めてあげて、さらにがんばることを褒める繰り返しをすることで子どもは、結果的に自己肯定感を高めることができるんです。
学校で勉強していることは見えないことが多いです。一緒に作る料理の機会は親子でできて、子どもが一生懸命やっていることを見ることができる素晴らしいアクティビティです。

心平:自己肯定感をあげるって難しいですよね。一定を超えると自己顕示欲を高めることになってしまう。

瀧先生:おっしゃるとおりで、自己肯定感は難しい概念です。自分自身を大事に思える気持ち、「自尊心」と自分ががんばることで何かを変えることができる「自己効力感」この二つが大事なのですが、日本は規律を重んじる文化なので、外れることを嫌います。
だからこそ、規律の中では競争が生まれがちで、自己肯定感をあげづらいんです。そういう意味では、料理は努力の過程が見えるわけですからすごくいいです。

自分を大切にする。そして自分ががんばることで何か変えることができる。
この二つが学術的には「自己肯定感」と言われています。

そういう力を伸ばしていくことが大事です。

加藤:何かを新しくやろうと思うとハードルが高いですが、料理は日常の延長線上にある活動なので親子で取り入れやすいですね。

心平:習慣を変えてみてください。例えば「土曜日の午前中は一緒に料理をしようね」などです。

加藤:朝ごはん当番の習慣ができますね。

心平:そして、その習慣に「責任」をつけてください。

子どもは、責任がないと安易にやらなくなってしまいがちで、親も許してしまいます。でもそこで「お当番の人が作らないと朝ごはんがないんだよ。自分も食べられないし、みんな朝食がないんだよ。」と怒るのではなく、責任があることを言い続けることが大事だと思います。

瀧先生:料理を通して学べることは本当に多いですね。

加藤:料理は生きていくためにも必要であり、グリット(やり抜く力)も育み、クリエイティブで色々なことが吸収できる活動だということを改めて認識しました。

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