料理をおいしく作るために必要な手順や判断力を育む【栗原心平×瀧靖之④】

Posted by

どうすればおいしくなるかを考えて必要な調味料を選び、入れる順番や火加減を見る。素材の変化に気を配りながら、同時にいくつかの作業を行う。KIDSNA Academy 第四回は、様々な場面で活かせる「マルチタスク」と「ロジカルシンキング」を育てることができるレシピを、料理家の栗原心平さんに教えていただきました。また、脳科学の観点から料理を行うことで育つ脳の機能について瀧靖之教授を交えた対談をご紹介します。 「料理」を作ることで育める段取りと判断力 「食べる経験」の多さが「作る楽しみ」に変わる 親子で楽しんで行う料理が子どもの脳を育む 料理の上手 下手は「経験値の違い」 「Shimpei’s Special」五感をフルに使い「マルチタスク」と「ロジカルシンキング」を鍛えるレシピ 「料理」を作ることで育める段取りと判断力 加藤:料理は、メニューを決めて逆算して美味しく作るための「論理的思考」。そして「マルチタスク」である同時進行の作業が繰り返されていると思います。 料理を行うことで習得できる具体的なスキルにはどんなことがありますか。 心平:「段取りと判断力」です。料理は作る順番だけでなく、同時並行的に作業を進めなくてはならないこともあって、「どちらを優先すべきか」といった判断力も身につくと思います。 瀧先生:限られた時間と資源の中で同時並行で日常的に行っているのが料理だと思います。私は、お湯が沸くまで待っているので料理を作るうえではまったく役に立ちません。 加藤:意外ですね。瀧先生はマルチタスクで、なんでも手際よく作業するイメージがあります。 瀧先生:いやいや、よく「お湯を沸かすのに張り付いていなくてもいいでしょ?」と言われます。(苦笑)目玉焼きも、どの程度焼けばいいのかがわからないんです。経験不足なんだと思います。 心平:実際、料理は慣れの部分が多分にあると思います。目玉焼きも、フライパンに卵を落として水を入れて蓋をする。少し蒸して、黄身の上に白い膜が張るおおよその時間も経験を重ねることでわかってきます。そういうことも場数を踏む必要が確かにあるとは思います。 「食べる経験」の多さが「作る楽しみ」に変わる 加藤:私は、料理をしているとすごく脳を使っていると感じます。特に、同時に数品作ると消耗する感覚があるのですが、心平さんはそういう感覚はありますか。 心平:僕は自宅に友人家族を招いて料理をふるまうときに、タスクのポイントを全部書くんです。その上で下ごしらえをするのですが、その作業そのものは正直、苦にはなりません。 ですが、レシピを組み立てる作業ではテンションが違います。 また、そのレシピもお子さん向け、男性が作る用などで分量も切り方、作り方や味の決め方も変わるのでそのときは消耗します。 加藤:レシピ作りは本当にロジカルな作業だと思います。私はレシピを見て作る側なのですが、そもそもレシピはどのように組み立てていくのでしょうか。 心平:「レバニラ」を例にあげると、食材のレバーとニラがたつようにするためにまず、レバーの下ごしらえのタイミングが重要。さらにレバーを噛んだときの味を決めます。味付けを濃いめにする場合には、オイスターソースを入れてから砂糖…といったように逆算にして考えていきます。 そして料理は、どちらかというと作る経験よりも食べる経験の方が重要だと僕は思っています。だからこそ、僕のレシピは食べた料理の記憶が基礎になっています。 今は、再現できるだけの経験があると思っていますが、料理家として出発したばかりのころは経験が少なかったにもかかわらず作ることができたのは、食べる経験が多かったからだと思います。 瀧先生:膨大な経験のインプットがあるからこそ、できることなのだと思います。新たなものを生み出すことの難しさを今のお話で痛感しました。 心平:子どものころに僕はよく、焼肉屋や居酒屋に連れて行ってもらっていました。居酒屋では最後の〆で天丼を出してくれたことを話した内容はもちろん、味も鮮明に覚えています。 また、小学校2年生のときにカニ味噌をはじめて食べたのですが、美味しくてひとりで全部食べてしまった記憶が料理とともにあります。食べる経験のインプットです。 瀧先生:感情と記憶は密接な関係にあると言われています。そして、感情をつかさどる扁桃体が海馬に伝えて記憶として残ります。そういう意味でも、料理はクリエイティビティな活動なのだと思います。伺っていてすごく感じました。 親子で楽しんで行う料理が子どもの脳を育む 心平:僕は、嫌がられるほどの段取り男なんです。もちろん、イレギュラーなこともあるので、最初にタスクと段取りを決めて最後に行きつく先を決めておくようにしています。出張の場合は、何時に駅弁を食べるかも決めています。 加藤:休日のおでかけの段取りもする方ですか? 心平:僕が行く場所を決めた場合は段取りします。 但し、家族もいるので予定時間に出発できることはほとんどないですが、「この時間に出たらお昼はここで食べられる」「その後は●●を見て、買い物をする」。「そうしたらこの時間に帰ってこられるから●●には間に合うよね」という大筋は決めます。 加藤:すごいですね。 心平:タスクと段取りを決めることは仕事にとても役立ちます。無意味な動きのように思えても結果的には無駄にはならないです。 瀧先生:私は段取りがそれほど得意では無いのですが、時間の使い方とか、僭越ながら心平さんに似ていると思い、嬉しくなりました! 但し、感覚的なお話で恐縮ですが、人はトラブルに出くわしたとき、柔軟に対応できる人と、すぐにはあまり柔軟に対応出来ないタイプの二通りあると思うのですが、私は後者の「すぐにはあまり柔軟に対応できないタイプ」に近いと思っています。だから柔軟に処理できるのは素晴らしい才能だな、と思います。 加藤:私は段取りがまったくできないので、見習わないと思いました。そこで、子どもに料理の段取りやマルチタスクを鍛えるためにはどのように促していけばいいですか。 心平:最初は、作業が重ならないようにすることが大事です。 瀧先生が先ほどおっしゃっていたように、お湯が沸くのをずっと見ていることから始めることが実は良いのです。大人にとっては進んでいないことも子どもにとっては大きな変化です。この経験が徐々に料理に形作られていきます。 また、仮にそれが電子レンジで作ったかんたんな料理であったとしても、完成後に「すごく美味しい」ということがポイントです。 それからステージと段取りを少しずつあげていき、レンジで調理をしている間に鍋でお湯を沸かすなど、マルチタスクを入れていってあげるといいと思います。 加藤:ちょっとずつクリアしていくのですね。 心平:そうです。但し、味が担保されていることが重要です。例えばスープであれば、複雑に絡み合った食材の味が立つことを明確にしてあげないと、子どもは美味しいとは思わないんです。 加藤:すごく勉強になります。確かにそうだと思います。 瀧先生:心平さんがおっしゃるように、子どもたちには簡単な機会を与えてあげることが大事です。そうすると「得意・不得意」「できる・できない」ではなく、経験が増えることで結果的にできるようになるのだと思います。 私は基本的に、「できない」「苦手」ということが世の中にはほとんどないに等しいと思っています。それは私たちの脳は可塑性といって変化する能力があるからです。 だからこそ大人になって、何歳になっても習得は可能ということがわかっているのです。 そう考えると「苦手」とか「できない」という事象は、人生の中でそれを経験する機会が少ないということだと思うのです。私も言い訳をすると料理をする機会が少なかったので、できないわけです。(苦笑) 心平:この話はまさに子どもだけのことじゃないですね。大人にも聞いてほしい話です。 加藤:ほんとにそうですね。脳に可塑性があるということは、いつからはじめてもできるということですものね。お父さんお母さんが、「料理は苦手」と思っている人もいると思います。でも、今から親子で一緒に始めるといいですね。 瀧先生:子どもは、親が楽しんでいると自分も楽しいんです。親がイヤイヤやっていることは子どもも嫌いになるのです。 だから親が「料理ができる子どもになってほしいな」と思ったら、自分ががんばらないとダメです。子どもにピアノをやってもらいたいと思ったらまず、自分が習いはじめる。 そして、大事なことは楽しくやるということです。イヤイヤやっていたり、子どもに無理やりやらせようとするのはダメです。親が楽しそうにやっていたら子どもも楽しくなります。親が楽しくやっていれば、子どもも楽しくついてきてくれる。これは何にでも言えることだと思います。 心平:知人のプロのギタリストであるお子さんがとても楽しそうにギターを弾いているんです。「無理やりさせても、あんなに楽しそうにやらないよな」とは思っていたのですが、ご両親が楽しそうに演奏をしているのでしょうね。 僕が料理の立場で子どもがそうなっているのか、といえばそこまではいっていないので楽しそうにしていないのかもしれませんね。 加藤:楽しそうにやっているイメージがありますよ。 心平:ありますか? 加藤:むちゃくちゃあります。(笑) 瀧先生:あると思うのですぐに解決しますよ。(笑) 料理の上手 下手は「経験値の違い」 加藤: 瀧先生に伺いたいのですが、料理のうまい下手に先天的な要素はありますか 瀧先生:「ありません」と言っていいと思います。 もちろん、私たちの身体的要素のすべては、先天的な要因と後天的な要因の両方が影響しています。 ただ、「料理に上手・下手が先天的にあるか」と言われればそんなことはないと思います。概ね、後天的な経験の差だと思います。 だから料理が下手なのでなくて、料理の経験が少ないのだと思います。 だからもし、料理が下手であることが気になるのであれば、「楽しく作ろう」とまずは思うことと、心平さんもおっしゃっていましたが、場数を踏むことで上手くなると思います。 私も偉そうに言っていますが、今日から私も苦手意識を持たず、楽しく料理を始めようと思います。 加藤:今回、料理を行うことで育くむことができる「段取り」や「判断力」は何事にも通じることであり、うまく使えると様々なことに活かせるように思いました。 また、料理を美味しく視覚的にも美しく作ることのノウハウが実は、「作る経験よりも食べる経験が重要」との心平さんの幼少期の体験。また、瀧先生が話された「料理ができる子どもになってほしいと願うなら親が楽しんで行う姿を見せることが大切」という脳科学の観点からのお話が強く印象に残っています。 日常、毎日行う料理ではありますが、向き合い方ひとつで楽しい学びになることを改めて実感しました。また、教えていただいたレシピも子どもと一緒にぜひ挑戦したいと思います。 「Shimpei’s Special」五感をフルに使い「マルチタスク」と「ロジカルシンキング」を鍛えるレシピ 関連する記事 創造力を育み幸せを運ぶツールとしての料理【栗原心平×瀧靖之③】 料理は日常的な活動ですが、実は子どものクリエイティブを育むことができる身近なツールです。KIDSNA Academy 第三回では、料理家の栗原心平さんに旬のトマトを使った視覚的にも美しい子どもも喜ぶレシピを教えていただきました。また、料理を作ることで得られる創造力と脳の発達について、瀧 靖之教授のお話をご紹介します。 アウトドアは失敗体験を親子でする良い機会【栗原心平×瀧靖之②】 アウトドアでのキャンプ料理は風土や気候など変化する自然の中で行うため、失敗がつきものです。「どんなに出来が悪くても野外で食べると美味しく感じる」といいますが、できれば見栄えよく作って、美味しく食べたいもの。KIDSNA Academy 第二回は、料理家の栗原心平さんに人気のスキレットを使ったレシピを教えていただきました。また、アウトドア体験と脳の発育との関係について瀧 靖之教授を交えた対談をご紹介します。 バーチャル×リアルの二重奏!子どもの脳を育む料理体験【栗原心平×瀧靖之①】 「デジタルネイティブ世代」と呼ばれる現代の子どもたちにとって「料理」は、バーチャルをリアルに再現できる身近な体験です。そこで、KIDSNA Academyでは4回にわたって能力開発型のオンラインクッキングスクールを開催する料理家である栗原心平さんにお話を伺いました。第一回目は、脳科学者である瀧 靖之教授、KIDSNA STYLE編集長・加藤による対談と五感を味わうレシピをご紹介します。

もっと見る

創造力を育み幸せを運ぶツールとしての料理【栗原心平×瀧靖之③】

Posted by

料理は日常的な活動ですが、実は子どものクリエイティブを育むことができる身近なツールです。KIDSNA Academy 第三回では、料理家の栗原心平さんに旬のトマトを使った視覚的にも美しい子どもも喜ぶレシピを教えていただきました。また、料理を作ることで得られる創造力と脳の発達について、瀧 靖之教授のお話をご紹介します。 料理の視覚的な美しさは芸術的 幸せを運ぶ料理の魅力 身近な家族のコミュニケーションツール 試行錯誤と創意工夫を育む クッキングタイムの日常と非日常を分けて楽しむ 「Shimpei’s Special」五感をフルに使う色彩豊かな子どもも喜ぶレシピ 料理の視覚的な美しさは芸術的 加藤:料理は作る経験をすることができますが、創作して演出するという観点でもたくさんの学びがあると思います。料理から得られるクリエイティブなスキルはどんなことが考えられますか? 心平:色々あるとは思いますが、最も重要なのは「美味しそうに見えること」と「実際に食べて美味しいこと」だと思います。美味しそうに見えるためには器に対しての色味、色合い。もっと言うとテーブルに対しての調和を考える必要があると思います。そう言うと難しいように思いますが、「盛り付け」は経験数です。だからこそ最初は、料理写真を見て真似てやってみることが大事です。天性の才能を持つ方ももちろんいるとは思いますが、一般的には感性でやってみてもうまくはいかないものです。色々な盛り付けを真似ていくことで、自分なりの盛り付けができあがっていきます。 加藤:確かに、最近はWEBやSNSなどでも盛り付け例を見ることができますものね。瀧先生がよくおっしゃられる「模倣」ということにお話が近いのかな、と思います。 瀧先生:スポーツでも楽器演奏でも文章を書くことなども同様だと思うのですが、知識をインプットしないとアウトプットはできません。ファッションや絵画なども基本をインプットしたうえで、自分なりのオリジナリティを作り上げていくことがベストな流れだと思います。私は料理がまったくできないのでこんな偉そうなことを言っていて恐縮なんですが、料理もそういう点で似ていると思うのです。だからこそ学んでアウトプットすることが大事だと思います。 心平:僕は早い時期から父親の食事係でした。もちろん最初のころはそんなに上手くはできませんでした。そんなときに父親から「“学ぶは真似る”だから、最初は色々真似ていけ。いきなり自分のオリジナリティを出してもバシッと決まるわけはない。だからまずは味の基礎を学びなさい」と言われたのを覚えています。ケーススタディですね。 加藤:心平さんは小学2年生くらいからお料理をされていたんですよね。 心平:コンビーフのキャベツ炒めとスクランブルエッグを作って、みんなが起きてきたらトーストを焼いてというふうに3種類を用意しました。 瀧先生:すごいですね。いまの私がそのレベルにいくかという感じです。(苦笑) 加藤:小学2年生でそこまで作るのはすごいですね。 心平:両親はもちろん来客の際には僕が料理担当でふるまってはいたのですが、実は大学生になっても料理を仕事にしようと思ってはいなかったんです。当時、料理を美味しく作れるようにはなったと思うのですが、盛り付けの手段がわからなくて、そこで見出したのがかつおぶしで料理を隠したり、ねぎ盛りにしたりなど、ちょっと雑なんですが見た目に「わっ」と驚くような盛り付けです。また提供の仕方、大皿なのかひとり分でなのかによっても盛り付け方がかわってくると思います。それもケーススタディですね。 加藤:いろいろ試されて今になっていったんですね。 心平:そうです。 幸せを運ぶ料理の魅力 瀧先生:料理が苦手な代表という立場で言わせていただくと、料理が難しいと思う点は調理だけでなく見せ方もあり、味の良さもあります。調理の過程はピアノ演奏で、見せ方は絵画的でありながら、そこはきちんとした段取りが必要であり、クリエイティブな作業だと思います。だからこそ、トライアンドエラーの繰り返しなんでしょうね。 心平:僕はわりと自然に料理に向き合うことができたので、恥ずかしながらそこまで考えたことはなかったです。でも、料理も継続しないとうまくはならないと思います。趣味の世界は、他者と一緒に楽しめることはあっても自己満足に陥りがちです。料理は食べないと生きていけないわけですから、日常です。 美味しいものができたらみんなで共有して食べられて「美味しかったね」「ありがとう」って言ってもらえます。 加藤:ほんとうにそうですね。そう言ってもらえると自己肯定感もあがりますし、さらに上手になると思います。 瀧先生:自己肯定感や主観的幸福感は、子どもたちの成長にとっても大人の認知症リスクを減らす傾向を保つためにもすごく重要なんです。自身の主観で効果を高めるよりは、他者の効果を高めてあげる方が結果的に自分に返ってくる。つまり、人を助けたとき、「あとでやってよかったな」と思うのと一緒です。人のために何かをやってあげることが、結果的に自分の幸せに帰ってくると言われています。料理をふるまうことで、他者の主観的効果を高めながらも結果的に自分を高める、料理の素晴らしさを今回、改めて実感しました。 心平:僕が結果的に料理の仕事についたのもそこが大きな要素です。僕の今の仕事は作って食べさせることではなく、作ったレシピを多くの方に利用してもらい、各家庭で作ってもらって家族にふるまってもらうことです。だからおこがましいかもしれませんが、もしかしたら僕のレシピがその家の味になる可能性もあるんです。そう考えたらこんな幸せなことはないと思うのです。嫌らしいいい方かもしれませんが、良い仕事だなと最近つくづく思っています。 加藤:ほんとにそうです。わが家でも実は心平さんのレシピで定番になっているものがあるんです。だからこそ、作ったレシピが広がっていくことはとても素敵なことだと思います。 瀧先生:私も心平さんの『男子ごはん』を見て、いろいろ勉強しないと。(苦笑) 身近な家族のコミュニケーションツール 加藤:「料理をすることで人を幸せにすることが自分に帰ってくる」というお話がありましたが、これが日常になることで子どもが優しい人に育つと思います。今はデジタルの普及だけでなく、コロナ禍ということもあって、リアルなコミュニケーションを取りづらくなっています。そういう意味でも日常的に料理を行うことで優しい心を育むことができる良い機会だと思います。 瀧先生:おっしゃるとおりで、コミュニケーションをとる上で言葉以外、文字以外の情報が実は多いんです。言葉のコミュニケーションよりも「しぐさ」や「表情」の割合の方が多いと言われています。だからこそ、夫婦や子どもと言葉や文字以外のコミュニケーションツールをいかに持つかが重要です。そういう意味で、料理はもっと普遍的な家族でface to face(フェイスツーフェイス)でできるコミュニケーションツールですよね。 加藤:コロナ禍になって社会的にはよくない状況ですが、家にいる時間が増えたこともあり、家族が向き合う良いきっかけにもなったようには思います。 心平:そうですね。仕事柄会食が多く、コロナ禍以前は土日を含め週2〜3回程度しか家で食事をしていなかったので家族間の会話も抜けていたんです。 でも、コロナ禍になってからは家族に食べたい料理の希望を聞いて自分で買出しに行き、作ってふるまうことで日常的に会話が断片的ではなく、「昨日のテストどうだった?」と聞けるようになりました。子どもも聞いてもらえることが楽しみになり、「昨日のテストは●●だった」と自分から話してくれるようになりました。 瀧先生:わが家は、楽器がひとつのコミュニケーションツールになっていますが、料理は一緒に作って食べて、気持ちを共有して会話が弾むといったさらなる広がりが生まれることが魅力ですね。 心平:楽器は何をされているのですか? 瀧先生:私はピアノとドラムで、息子はピアノとウクレレで、妻はピアノです。以前は、3人で発表会をやっていました。 加藤:素敵ですね。 心平:それは料理よりもずっとすごいと思います。 瀧先生:いやいや、私は料理をがんばろうと思いましたので良い刺激になりました。 試行錯誤と創意工夫を育む 加藤:今回の対談前に思ったのですが、料理をすることが実験や作業といった体験を通じて興味と好奇心を育む第一歩に通じると思ったのですが、心平さんはどう思われますか? 心平:当てはまる部分は多分にあると思います。 ただ作業工程が様々なジャンルで重なっていることで理解しづらいとは思います。例えば、調理そのものは科学に基づいているのですが、割と本能的に実施しているので「科学」という感じがしないんです。でも紐解いて、考えてみると結合することによって旨味が倍増することが多分にあるし、分量に数学も入ってきます。割って、掛けていくという要素はたくさんあります。 加藤:確かに、言われてみると「ああ、そうだな」とは思うのですが、日常的に行う料理と科学は、結びつきづらいですね。 瀧先生:私は、「なぜここで水を入れて蓋をすることが良いのか」「ここで塩を少々とはどういうことか」をすぐに考えてしまいます。だから料理は、まさにSTEAMだと思います。ここで面白いと思うのが「A」のArtです。リベラルアーツでもありますが、クリエイティブな分野だと思うんです。つまり、料理をしていくことで様々なことが派生していきます。だからこそ、ロジックとクリエイティビティが混じっていることを考えても「STEAM」なんでしょうね。私はロジックしかないですが、そこからやっていくことで多くのクリエイティビティが派生して産まれていくのだろうと思います。 心平:先に塩をすることであとの食材と結合する意味がわかると料理が面白くなりますね。 瀧先生:ハマると楽しくて仕方なくなるでしょうね。今は、水面下でモヤモヤしている感じです。いつか克服したいと思っているのが料理なんです。なので、心平さんの話を伺っていてすごく自信になりました。 加藤:瀧先生は1年後にはめちゃくちゃ料理ができるようになっていたりするかもしれませんね。(笑) ※STEAM教育…Science(科学)Technology(科学技術) Engineering(工学・ものづくり)Art/Liberal Arts(芸術/リベラルアーツ:文化や生活、経済などを含めた広い知識)Mathematics(数学)の5要素の頭文字を組み合わせた造語 クッキングタイムの日常と非日常を分けて楽しむ 瀧先生:心平さんの先ほどの話、「料理は人を幸せにする」っていう言葉がとても心に響きました。そこがとても素晴らしいですよね。 加藤:お子さんは心平さんの料理を食べられていてどうですか? 心平:なんでしょうね。僕も考えてみたら母に対してそうだったと思うのですが、日常のことなので平気で「あんまり好きじゃない」というんですよ。(苦笑)職業柄、色々な食材を使いますが、なるべく旬のものを食べさせたいと思うんです。例えば春になると山菜がでますが、旬のものはえぐみが強かったりします。でも、経験のためにとりあえず食べさせてみるんですが、平気で「美味しくない」というんです。なので、次は違う工夫や加工をして出すのですが、そのようなことも本人にとっては普通のことと思っているようです。また、わが家では夫婦揃って料理をしますので、父親が料理をすることにも違和感がないです。 加藤:それが教育になっていますよね。 瀧先生:先ほども言いましたが、子どもは基本大人を模倣します。ですから、お父さんが料理をする姿を見ることで、将来自分も料理をするのがあたりまえ、そして子どもと一緒に料理をするのもあたりまえになります。ポジティブな連鎖、スパイラルが起こります。 加藤:人は経験した感覚値で考えるので、良い教育になっていると思います。 心平:そう信じて続けたいと思います。 瀧先生:今回は、料理とクリエイティブティの話ですが、実は創造力は「知的好奇心」とつながっています。だからこそ、その学びを楽しむためにも、前回お話をしたアウトドアなどに出かけることが良いと思います。 加藤:なるほど。料理が日常であるために、どうクリエイティブにつながるかわからないという声があったのですが、そういった親の考えが機会損失につながるのだと思いました。 月に1回でも機会があればいいのだと思います。: 加藤:そうですね、週末などの時間があるときにちょっといつもと違う料理を子どもと一緒にすることが大切なのかもしれませんね。 心平: 日常に追われていると、なかなかそう考えられなくなっちゃうんですよね。料理が「追われる作業」になってしまうことも不幸です。 仕方ないとは思うんですが、追われていると感じている方の前提が、「きちんとしないといけない」と思っているんです。自分が自分に課すものが高いんです。そうすると急いで帰宅して、「あっ、タイマーかけるの忘れた」みたいなことだけでも、ストレスになると思うんです。だからこそ、僕はインスタント食品や出前もいいと思うんです。月曜日はインスタント食品にしちゃおう、火曜日は味噌汁だけつくっておかずは買ってくる。水曜日は、炒め物だけ作ってご飯と味噌汁。そんなふうに自分でリズムを作ってあげれば苦しくないはずです。 瀧先生:完璧を求めてしまうと苦しくなってしまうので、手を抜くときとそうでないときと差をつければいいんですね。 加藤:確かにそうですね。そう考えることで日常の料理も楽しくなります。何より、瀧先生も共感されていましたが「料理が幸せを人を幸せにする」お話は、素敵だと思いました。また、子どもと一緒に料理をする上で、視覚的な美しさを考えて盛り付けをし、さらに食器やテーブルウェアまで考えることへの興味が私自身にも広がりました。 「Shimpei’s Special」五感をフルに使う色彩豊かな子どもも喜ぶレシピ 関連する記事 料理をおいしく作るために必要な手順や判断力を育む【栗原心平×瀧靖之④】 どうすればおいしくなるかを考えて必要な調味料を選び、入れる順番や火加減を見る。素材の変化に気を配りながら、同時にいくつかの作業を行う。KIDSNA Academy 第四回は、様々な場面で活かせる「マルチタスク」と「ロジカルシンキング」を育てることができるレシピを、料理家の栗原心平さんに教えていただきました。また、脳科学の観点から料理を行うことで育つ脳の機能について瀧靖之教授を交えた対談をご紹介します。 アウトドアは失敗体験を親子でする良い機会【栗原心平×瀧靖之②】 アウトドアでのキャンプ料理は風土や気候など変化する自然の中で行うため、失敗がつきものです。「どんなに出来が悪くても野外で食べると美味しく感じる」といいますが、できれば見栄えよく作って、美味しく食べたいもの。KIDSNA Academy 第二回は、料理家の栗原心平さんに人気のスキレットを使ったレシピを教えていただきました。また、アウトドア体験と脳の発育との関係について瀧 靖之教授を交えた対談をご紹介します。 バーチャル×リアルの二重奏!子どもの脳を育む料理体験【栗原心平×瀧靖之①】 「デジタルネイティブ世代」と呼ばれる現代の子どもたちにとって「料理」は、バーチャルをリアルに再現できる身近な体験です。そこで、KIDSNA Academyでは4回にわたって能力開発型のオンラインクッキングスクールを開催する料理家である栗原心平さんにお話を伺いました。第一回目は、脳科学者である瀧 靖之教授、KIDSNA STYLE編集長・加藤による対談と五感を味わうレシピをご紹介します。

もっと見る

アウトドアは失敗体験を親子でする良い機会【栗原心平×瀧靖之②】

Posted by

アウトドアでのキャンプ料理は風土や気候など変化する自然の中で行うため、失敗がつきものです。「どんなに出来が悪くても野外で食べると美味しく感じる」といいますが、できれば見栄えよく作って、美味しく食べたいもの。KIDSNA Academy 第二回は、料理家の栗原心平さんに人気のスキレットを使ったレシピを教えていただきました。また、アウトドア体験と脳の発育との関係について瀧 靖之教授を交えた対談をご紹介します。 非日常と未体験を経験できる機会 困難を乗り越えてやり抜く力を育む訓練 失敗は新たな答えを見つける貴重体験 料理家と脳科学者 アウトドア活動の楽しみ方 「Shimpei’s Special」五感をフルに使うレシピ〜絶品キャンプ飯〜 非日常と未体験を経験できる機会 加藤:心平さんも瀧先生もアウトドアでの活動をよくされると伺ってます。 瀧先生は、以前から「アウトドア体験は親子関係によい活動」とおっしゃっていますが、脳科学の観点からみるとどんな効果があるのでしょうか。 瀧先生:そもそも「アウトドア」とは、屋外で行う活動の総称で市街地を離れた自然空間で行うことなので、様々な組み合わせが可能です。例えば、同じ場所でも季節や時間、天気などが違えば目にする光景はもちろん生息する植物や昆虫なども異なり、無限の組み合わせを体験することができます。また、脳科学の観点で「知的好奇心をいかに育むか」ですが、図鑑で見てから本物の昆虫を見ることで知識が積み重なっていきます。本で見た知識と実際に見た知識の組み合わせで、私たちはもっと知りたいという「知的好奇心」が生まれます。そういう意味でも、アウトドアでの活動は知的好奇心を育む最高のツールです。そして、学業成績を伸ばすためにこの知的好奇心が重要であるともいわれています。知的好奇心が高いと専門的な知識を獲得する、いわば「もっと勉強したくなる」ことがわかっています。 加藤:確かにアウトドアでは新たな発見だけでなく、予想外のことが起こる楽しさがあり、大人も子どももワクワクします。心平さんは、アウトドアでも料理をされると思いますが、家の中で行う料理とはどんな点が違いますか。 心平:基本、イレギュラーの連続だと思います。火を使うことひとつをとっても、火のおこし方から焚火で肉をあぶらせたりすることもその日の天候や環境によって違います。また最近では、ガスバーナーを持っていくことが多くなっていると思いますが、成り立ちや違いを体験させることができるのがアウトドアのいいところですよね。 加藤:今の子どもたちは火を知る機会がないと思います。以前であれば家で焚火もできたと思いますが、いまはなかなかできません。また、ガスコンロがIHに変わっているので火に直接触れることがないので、火そのものが危ないことを感じることができないと思います。 心平:火の存在があることで「過熱できる」のですが、なんで温かくなるのかがわからない子どもも実際にはいるかもしれませんね。 加藤:普段の生活では知りえないことやイレギュラーなところでの料理体験ができるのもアウトドアのいいところですね。 困難を乗り越えてやり抜く力を育む訓練 瀧先生:人生は、多かれ少なかれ困難を乗り越えていく「レジリエンス」とやり抜く力といわれる「グリット」が大事だと思っています。これらを育むためにもアウトドアでの経験は非常に重要だと思います。非日常を経験することで「前回、こういうことがあったからこうすればいいのだ」とわかることは大事なことだと思います。 心平:それは大人もそうですよね。 瀧先生:基本、子どもは親の背中を見て大人を模倣して育っていくと言われています。そういう意味でも親子でアウトドアに出かけ、親は慣れていないことも一生懸命やっている姿を見せることにも意味があると思うんです。 加藤:今はVUCA(ブーカ)*の時代と呼ばれるように予測不可能なことが多いことを考えると、料理やアウトドア活動が鍛える訓練になるんですね。 瀧先生:私たちは未来を予測することが難しいので、いかに過去から学ぶかが重要です。その経験がアウトドアではできます。 心平:危険察知の意味でもいいと思うんです。ナイフも今、触れる機会がないですよね。 瀧先生:私たちが子どもの頃はカッターで鉛筆を削っていたと思いますが、今の子どもはナイフも使わせないですものね。 心平:そういう意味でもアウトドアの場では、防具用の手袋をすることで、鋭い専用ナイフを使って木を削ることができます。自分で削ってみることで「危ない」ことの理解ができます。 瀧先生:子どもは、小さな失敗を繰り返すことで大きな失敗をしないことを学びます。高いところから落ちて痛いことがわかれば、大きな事故になるような高いところから落ちるようなことはしません。そういう経験を子どもたちにさせてあげることができるアウトドアは最高です。 心平:小さなミスが大事ですね。 瀧先生:しかも、野外なので虫に刺されるし、小さなケガもします。 心平:働かないとその日の家ができないということもあります。(笑)子どもも手伝わざるを得ません。楽しいことの前にはテントの設営などやらなければならないことがあり、後片付けもしないといけません。それでも「行きたい」と思うのは、大変なことより楽しいことがあるからだと思います。 加藤:アウトドアに慣れている人はゼロベースでできると思いますが、最近では、整備されている施設があると思います。そういう場所はいかがですか。 瀧先生:私の考えですが、まずはセッティングされているところからはじめていいと思います。そこから入って、「なるほど、これは楽しいんだ」ということを見つけることが大切だと思います。楽器演奏でもなんでも始めるときにはハードルが高いと踏み出せないと思うんです。体験する、しないで人生の幅が違ってくると思うので、いかにハードルを下げて一歩踏み出すかが重要だと思っています。だから否定することはなく、選択肢のひとつだと思います。 心平:料理も同じです。いきなりハードルの高いものではなく、簡単なものからでいいと思います。最近では、施設やコテージで丸鶏やシーズニングなどセットになったものを渡されて焼けば食べられるといったパックがそろったところも増えています。 加藤:それならできそうです。まずはできることでいいんですね。 瀧先生:それなら私も料理ができそうな気がします。(笑) ※VUCA(ブーカ )…Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取った造語で、不確実性が高く将来の予測が困難な状況であることを示す 失敗は新たな答えを見つける貴重体験 加藤:失敗や変化から学べる様々な機会がアウトドアでの活動にはあると思いますが、脳にはどんな影響がありますか。 瀧先生:私たちが将来のことを考えるときの脳の領域は、過去について考えるときの領域と結構、重なっていると言われています。それは私たちが「どういうことで失敗をしたか」「どういうことで成功したか」を把握することでその先の計画ができるからです。だからこそ、私たちは常に「失敗から学ぶ」のです。もちろん成功から学ぶこともありますが、大事なことは失敗をせずに成功することではありません。豊かな経験こそが、私たちが生きていく上ですごく大事なんです。そもそも失敗とは、そこで辞めれば失敗かもしれません。ですが、うまくいかない原因を見つける試行錯誤をして「じゃあこうすればいいんじゃないか」と新たな答えを見つけたり作っていくことにつながります。つまり、試行錯誤が次のステップにつながります。そういう意味でも失敗できる環境を作ってあげることがとても重要だと思っています。 加藤:確かに今は失敗を経験する機会があんまりないですね。 心平:そうですね。 加藤:割とカタチが作られている中で、子どもたちは遊んだり何かをすることが多いので、常にできることが前提になっている気がします。 瀧先生:おっしゃるとおりです。水道や電気も通っている中でやるのと野外で行うのとはまったく違います。 料理家と脳科学者 アウトドア活動の楽しみ方 加藤:心平さんも瀧先生もそれぞれどのようなアウトドア活動をされているのか伺ってもいいですか。 心平:僕は2〜3家族で行くことが多いのですが、まず事前に図面が見えるキャンプ場でどんなふうに設営をするかを相談します。子どもたちをどこで遊ばせて雨が降ったら、このテントに暖房をひく…といった設計からはじめます。また、向かう途中に必ず道の駅や直売所があるところに敢えて行きます。そこでみんなで食べたいものを調達して、行った先で作って料理を食べます。到着したらみんなで設営します。調理場を最初に作るのですが10人くらい座れるテーブルの真ん中にシングルバーナーがおいてある、座りながら食べられるキッチンです。 加藤:想像しただけでもすごいです。行きたくなってしまいます。瀧先生は、どんなアウトドアをされるのですか。 瀧先生:心平さんの素晴らしいお話のあとに話すのは気が引けるのですが、私は生き物が大好きなので、息子とひたすら虫を採ったり魚を釣ったりしています。昆虫も気温や天気や時期などを考えて行かないとほとんど出逢えないんです。 心平:私は釣りもやるようにしていますが釣れたことがないです。先日は、河川のキャンプ場に行って、川に罠を仕掛けたのですが、朝になったら流されていました。(苦笑) 加藤:釣りって難しいんですね。 心平:釣りをちゃんと知っている人が準備をしてすれば釣れるのでしょうが、特に川は専門的なので知識が必要で難しいです。 加藤:アウトドアって自然の川や海などでキャンプもできて釣りもできるんだと思うと経験も色々できますね。 瀧先生:それに川遊びもできますし、星もよく見えます。 加藤:おふたりの話を伺って、私もすごくアウトドアに出かけたくなりました。何より、設備が整った施設で気兼ねなくはじめることが重要と伺い、初心者の私でも始められる自信がつきました。 「Shimpei’s Special」五感をフルに使うレシピ〜絶品キャンプ飯〜 関連する記事 料理をおいしく作るために必要な手順や判断力を育む【栗原心平×瀧靖之④】 どうすればおいしくなるかを考えて必要な調味料を選び、入れる順番や火加減を見る。素材の変化に気を配りながら、同時にいくつかの作業を行う。KIDSNA Academy 第四回は、様々な場面で活かせる「マルチタスク」と「ロジカルシンキング」を育てることができるレシピを、料理家の栗原心平さんに教えていただきました。また、脳科学の観点から料理を行うことで育つ脳の機能について瀧靖之教授を交えた対談をご紹介します。 創造力を育み幸せを運ぶツールとしての料理【栗原心平×瀧靖之③】 料理は日常的な活動ですが、実は子どものクリエイティブを育むことができる身近なツールです。KIDSNA Academy 第三回では、料理家の栗原心平さんに旬のトマトを使った視覚的にも美しい子どもも喜ぶレシピを教えていただきました。また、料理を作ることで得られる創造力と脳の発達について、瀧 靖之教授のお話をご紹介します。 バーチャル×リアルの二重奏!子どもの脳を育む料理体験【栗原心平×瀧靖之①】 「デジタルネイティブ世代」と呼ばれる現代の子どもたちにとって「料理」は、バーチャルをリアルに再現できる身近な体験です。そこで、KIDSNA Academyでは4回にわたって能力開発型のオンラインクッキングスクールを開催する料理家である栗原心平さんにお話を伺いました。第一回目は、脳科学者である瀧 靖之教授、KIDSNA STYLE編集長・加藤による対談と五感を味わうレシピをご紹介します。

もっと見る

バーチャル×リアルの二重奏!子どもの脳を育む料理体験【栗原心平×瀧靖之①】

Posted by

「デジタルネイティブ世代」と呼ばれる現代の子どもたちにとって「料理」は、バーチャルをリアルに再現できる身近な体験です。そこで、KIDSNA ACADEMYでは4回にわたって能力開発型のオンラインクッキングスクールを開催する料理家である栗原心平さんにお話を伺いました。第一回目は、脳科学者である瀧 靖之教授、KIDSNA STYLE編集長・加藤による対談と五感を味わうレシピをご紹介します。 五感を活用し脳を育む「料理」の魅力 同じレシピでも100人100通りの味になる面白さ デジタル活用からはじめる料理体験 大根おろしを作る簡単作業が自己肯定感を高める 「Shimpei’s Special」お家でできる五感をフルに使うレシピ 五感を活用し脳を育む「料理」の魅力 加藤:今の子どもたちはデジタル上でさまざまな知識を得ることが可能です。 料理を行うことで得られることに何がありますか。 心平:一番は「真実を知ることができる」ことだと思います。動画や写真で見て想像はできても、実際の「触感」や「におい」はまったく違うはずです。ましてや「味」はもっとです。そのことを身をもってわかることが料理を行うことの最大の魅力です。 瀧先生:心平さんがおっしゃる通りです。私たちは今、旅行をすることができない中でもインターネットの世界で、ある程度視覚的に様々な体験をすることができます。ただ、そこには脳の発達と活性化につながる五感のうちの3つ、「味覚」「触覚」「嗅覚」が欠けています。そもそもバーチャルは「受動的」です。もちろん、バーチャルの世界がダメだということではなく、バーチャルでハードルを下げ、そこからリアルに学ぶことで次のコミュニケーションなどに発展できます。そして、脳には「能動的」な体験が重要です。特に料理は五感をフルに使いますし、自分で作ったものを食べることが成功体験につながるので、子どもたちの脳にとてもいいです。 同じレシピでも100人100通りの味になる面白さ 加藤:そこで、料理を行うことでの具体的な学びを教えてください。 心平:料理を行うことで「成り立ち」がわかります。料理動画とレシピを見ると、とても簡単そうに思えるはずです。ましてや、編集をされたものであれば実際とはまったく違います。 数分で完成した料理も、真実の世界では編集された映像の中に実は30分くらいの間隔があって、実際にできるまでは2時間かかっているかもしれません。それが自分で作ってみることで「こんなに大変なんだ」とわかることも重要ですし、何よりバーチャルと異なるのは、最後に食べられることもリアルの魅力です。 加藤:確かに映像を見ていると、とても簡単そうにやっていることも自分でやってみると大変なのかがよくわかります。しかも、レシピ通りに作ったつもりでも同じようにはならないですよね。 心平:しかも、レシピでは味はわからないですよね。 実は、同じレシピで料理を作っていても100人いたら100通りの味になります。 例えば「中火で5分炒めてください」と書いてあってもガス台は家庭によって違いますし、またIHでも違います。また、調味料のしょうゆも味噌も使うものはみな違うはずです。だから火加減が違って、蒸発量の違う鍋を使えば、100%違う味になっているはずです。 加藤:そう考えると「料理は科学」ですね。いろんな要素がありますね。 心平:私たち料理家は、100人100通りの味のブレ幅の予想をつけて及第点を出して「おいしい」と言えるものになっていることを確認して最終的にレシピを出しています。 加藤:すごいですね。 瀧先生:しかも芸術でもある。 加藤:レシピがそれほどまでに色々なことを考えて作られたことを考えると、今は無料で見られるので、すごくありがたいことなのだと思いました。 デジタル活用からはじめる料理体験 加藤:ところで、心平さんはデジタルを活用した料理教室を開催されていると伺いましたが…。 心平:子どもたちがタブレットを使い慣れていることが前提なのですが、去年8月からオンラインで子供向けのスクールを開催しています。動画を見ながら、わからないところは止めたり戻したり、スワイプして拡大できるので、料理教室を行う上でデジタル活用はとても向いています。 加藤:写真とはぜんぜん違いますものね。 心平:写真だと変化がわかりづらいこともタブレットだと経時変化もすべて見ることができます。煮つけ具合などの途中過程もわかるので、失敗することもなくなります。 加藤:そういうデジタルの使い方ができるのはいいですね。 瀧先生:活字の世界は創造力を高めることができ、自分の解釈を深めることができます。一方で知識は解釈できないので、その点ではデジタルはすごくいいんです。料理本ではわからない変化なども動画では見ることができますので、次にどういう変化が起きたかの確認もできます。また、何度も見返すことで苦手意識もなくなります。動画でイメージを作ってハードルを下げてトライする。素晴らしい選択肢のひとつだと思います。 大根おろしを作る簡単作業が自己肯定感を高める 加藤:親子でキッチンに立つことでどんなコミュニケーションが生まれますか。 心平:まず、子どもが参加するハードルを下げてあげることが重要です。作る料理に対して子どもが貢献していることがないと一緒にやっても意味がないです。無理やり作業を作って子どもにさせるよりも、「あの作業をやってくれたからこの料理ができたよ、とても助かったよ」といった成功体験が大切なので、それを親が見つけることが大事です。 加藤:確かにそうですね。 心平:ほんとにささいなこと、みぞれ煮であれば、「大根おろしを作って」でいいです。大根おろしがないとみぞれ煮は成立しないですから。また、オムレツだったら、「卵を溶いておいて」でもいいんですよ。 加藤:なるほど。役割をつくってあげないとだめなんですね。 心平:親は、ついつい「手伝ってよ」といいがちなんですが、「この作業をやって」と言ってあげる方が子どもは受け入れやすいんです。 加藤:子どもはやる気になりますね。 心平:私はそうやってだいぶのせられました。「納豆を混ぜるのは心平がピカ一だとかね。」(笑) 加藤:そうなんですね。(笑) 瀧先生:褒めてもらえたことがやる気を引き出したんですね。 しかも、「結果」を褒めるのではなくて「努力」を褒めることが脳科学の視点では大事だと言われています。そういう観点でも、親は子どもが一生懸命がんばっていることを褒めてあげて、さらにがんばることを褒める繰り返しをすることで子どもは、結果的に自己肯定感を高めることができるんです。学校で勉強していることは見えないことが多いです。一緒に作る料理の機会は親子でできて、子どもが一生懸命やっていることを見ることができる素晴らしいアクティビティです。 心平:自己肯定感をあげるって難しいですよね。一定を超えると自己顕示欲を高めることになってしまう。 瀧先生:おっしゃるとおりで、自己肯定感は難しい概念です。自分自身を大事に思える気持ち、「自尊心」と自分ががんばることで何かを変えることができる「自己効力感」この二つが大事なのですが、日本は規律を重んじる文化なので、外れることを嫌います。だからこそ、規律の中では競争が生まれがちで、自己肯定感をあげづらいんです。そういう意味では、料理は努力の過程が見えるわけですからすごくいいです。 自分を大切にする。そして自分ががんばることで何か変えることができる。 この二つが学術的には「自己肯定感」と言われています。 そういう力を伸ばしていくことが大事です。 加藤:何かを新しくやろうと思うとハードルが高いですが、料理は日常の延長線上にある活動なので親子で取り入れやすいですね。 心平:習慣を変えてみてください。例えば「土曜日の午前中は一緒に料理をしようね」などです。 加藤:朝ごはん当番の習慣ができますね。 心平:そして、その習慣に「責任」をつけてください。 子どもは、責任がないと安易にやらなくなってしまいがちで、親も許してしまいます。でもそこで「お当番の人が作らないと朝ごはんがないんだよ。自分も食べられないし、みんな朝食がないんだよ。」と怒るのではなく、責任があることを言い続けることが大事だと思います。 瀧先生:料理を通して学べることは本当に多いですね。 加藤:料理は生きていくためにも必要であり、グリット(やり抜く力)も育み、クリエイティブで色々なことが吸収できる活動だということを改めて認識しました。 「Shimpei’s Special」お家でできる五感をフルに使うレシピ Your browser does not support our video. Your browser does not support our video. 関連する記事 料理をおいしく作るために必要な手順や判断力を育む【栗原心平×瀧靖之④】 どうすればおいしくなるかを考えて必要な調味料を選び、入れる順番や火加減を見る。素材の変化に気を配りながら、同時にいくつかの作業を行う。KIDSNA Academy 第四回は、様々な場面で活かせる「マルチタスク」と「ロジカルシンキング」を育てることができるレシピを、料理家の栗原心平さんに教えていただきました。また、脳科学の観点から料理を行うことで育つ脳の機能について瀧靖之教授を交えた対談をご紹介します。 創造力を育み幸せを運ぶツールとしての料理【栗原心平×瀧靖之③】 料理は日常的な活動ですが、実は子どものクリエイティブを育むことができる身近なツールです。KIDSNA Academy 第三回では、料理家の栗原心平さんに旬のトマトを使った視覚的にも美しい子どもも喜ぶレシピを教えていただきました。また、料理を作ることで得られる創造力と脳の発達について、瀧 靖之教授のお話をご紹介します。 アウトドアは失敗体験を親子でする良い機会【栗原心平×瀧靖之②】 アウトドアでのキャンプ料理は風土や気候など変化する自然の中で行うため、失敗がつきものです。「どんなに出来が悪くても野外で食べると美味しく感じる」といいますが、できれば見栄えよく作って、美味しく食べたいもの。KIDSNA Academy 第二回は、料理家の栗原心平さんに人気のスキレットを使ったレシピを教えていただきました。また、アウトドア体験と脳の発育との関係について瀧 靖之教授を交えた対談をご紹介します。

もっと見る